「アフガニスタンの文化がどうだったかを知るのに、博物館以上のものはない。だから、博物館がなくなってしまえば、いくら国が生きつづけても、それは形だけのものになってしまう。逆に、文化がそこに保存されていれば、国がたとえ消えても、人々に感動を与え続けることができる」
             
  「ソルハ」  帚木蓬生  あかね書房

 アフガニスタンの首都カブールで暮らす少女ビビの生活は、幼いころから戦争の中にあった。博物館の職員たちは、兵士たちにとられないようにと宝物をどこかに隠し、ビビの父親のラマートも、毎日、動かない発電所に通って、平和が訪れたときにすぐに発電所が使えるようにとシャフトを回し続けている。誰もが、いつか平和になった日のためにと思っているのに、学校にロケット弾が撃ち込まれ、ビビが通っていた小学校は閉鎖されてしまう。そしてタリバンに占領されたカブールでは、平和どころか次々に出される禁止令のために、人々は苦しい生活を強いられる。
 アフガニスタンに暮らす少女の5歳から15歳までを描いた物語。ビビには、しっかり者の父親と、学のある母親、思慮深い上の兄と元気一杯の下の兄、兄たちの母親、そして下働きをしてくれる老夫婦といった家族がいて、タリバン政権になるまではそれなりに幸せに暮らしている。だが、女性から学ぶ権利や外を出歩く自由を奪うタリバンの禁止令のせいで、ビビは大好きな学校に通うこともできなくなり、大切な人々をも失ってしまうことになる。
 帚木蓬生が若い人々への遺言の意味をも込めて書いたという物語。アフガニスタンの生活や信仰、民族や言葉の違いがわかりやすく描かれている。やさしい言葉で書かれてはいるが、中高生以上こそが読むべき本なのかもしれない。
 「無関心と無知は大きな罪だ」と書く筆者の心情を胸に刻んで読んでほしい。




オススメ本リストへ