「龍のたまごは、日に暖められて、七日めにかえるという。七日でかえらなければ、くだけて散ってしまうそうだ」
         
「龍のたまご」(「そこなし森の話」)佐藤さとる 講談社

 佐藤さとるが大好きだった。「だれも知らない小さな国」を読んだあとしばらくは、周囲をこっそり見まわしてコロボックルを探したものだ。この、「そこなし森の話」はそんな佐藤さとるのファンタジー童話集。現代の男の子や女の子の不思議な話や民話のようなお話が、いくつも収められている。やはり読み終わったあと、自分のまわりでもこんなことが起きないかな、なんて思ってしまうような話ばかりだ。
 電信柱を鬼に見立てていろんなことを想像したりする男の子たちは愉快だし、夢の中でだけ出会う男の子と女の子の話もおもしろい。箱ばっかり集めている女の子が拾った不思議なマッチ箱の話を読んだあと、しばらく箱を集めてみたくなって困ったこともある。
 さて、それでもこの短編集の中でいちばんの傑作は「きつね三吉」か「龍のたまご」か。
 「きつね三吉」は、否含山という山のふもとにある鍛冶屋でのお話だ。腕のいい親方の茂平のところに、三吉という少年が弟子入りする。ほっそりしたやさしそうな少年の三吉を、茂平は鍛冶屋にむいていないんじゃないかというが、ぜひにという三吉の言葉に弟子入りを許す。そして五年後、村をとおりがかったあやしげな坊さんに連れられて、三吉はとつぜん姿を消してしまう。気づかい、心配する茂平親方の娘ウメ。そして、三吉がいなくなって三か月ほどたった冬、傷ついたきつねが姿をあらわして……この続きは、ぜひ読んでもらいたい。茂平親方の台詞も最高だし、ラストの一行ではあっと驚かされることうけあいだ。
 「龍のたまご」はわんぱくで元気な男の子が龍のたまごを探すお話。庄屋の息子なのにあばただらけのきらわれもの、けれど好奇心だけはたっぷりな六之助がどんな風に龍のたまごと出会うのか。心ひかれる描写の龍のたまご、やはり一度見てみたいと……思ってしまう。



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