「あたしのような女は、立入り禁止、というわけね」
「―――」そのとおりです、と哲郎は胸のうちでいった。
「おまえはこの家の幸せをかき乱してはいけない。そんなふうに、この家が警告を発しているのがきこえるわ」
           
  「そこに薔薇があった」 打海文三 集英社

 連作短編集。全七話の物語だが、実は最後にいたるまで、物語同士が相互に関係しているのかどうかは、微妙にわからない。途中、結婚式当日に逃げ出した新郎の話があって、その次に、新郎に逃げられたと語る女性の話がくるので、この二話はつながってるんだろうな……とは思うものの、他のことはわからないし、実はつながっていると思った二話にも、とんでもない裏がある。
 すべての物語が、ある男が美しい女と出会い、抑制の効いた会話を楽しみながら性的な感情を高めてゆき……最後は殺される。そういうオチになっている。会話はぎこちないし(登場人物たちがまじめにセックスや人生について語っている様子が、背中がかゆくなるような感じなのである……)、恋愛部分と殺人の部分があまりにも唐突で、最初は連作短編だと思ってなかったので、なんでこの人こういう話ばっかり書くんだろう、パターンだなあ……なんて思っていたのだが、実はこのパターンこそが、最後の一話につながってるのだとわかったときの驚きは、見事にしてやられた、という感じでもある。最後まで読んで、もう一度最初に戻って読み直すと、あちこちに散りばめられた伏線が見えてきて、思わずなるほどと唸ってしまう。最後に残る恐怖の余韻もよい。
 初出時のタイトルが各話の最後に出ているのだが、それらがすべて旧かなで「わたくしといふ現象」(「はしゃぎすぎてはいけない」)、「せはしくせはしく明滅しながら」(「お家へ帰ろう」)などで、いまのタイトルとのあまりのギャップにも驚く。
 律儀でいい人の就職祝い、これで何冊目? オススメしてもらったときには、どうだかな……って思ってましたが、この本はけっこう好きでした。律儀でいい人がいうように、ラストがなんじゃこりゃあ? なんですよね。



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