「<迷子の王女さま>は、もはや迷子ではない。もうここがこの鳥の家庭になったのだ――この鳥が自分でそうきめたのさ」
           
「白雁物語:スノーグース」 ポール・ギャリコ(古沢安二郎訳)
 偕成社文庫


イギリス南部の小さな漁村近くに、ひとりの若い画家が住んでいた。小柄で背中にこぶがあり、左手もきみょうな格好に曲がっているこの画家、フィリップ・ラヤダーは、しかしそのグロテスクな外見とは異なり、あたたかい心をもっていた。人でも自然でも、すべてのものにあわれみと理解を示すラヤダーだったが、そのあたたかい心を受けとめてくれる人がいないために、彼は孤独に生きる道を選び、この地方にやってきたのだ。
そんなある日、ラヤダーのもとにひとりの女の子がやってきた。グロテスクな外見をもつ男に対する恐怖心を克服させたもの、それは傷ついた一羽の白い雁だった。傷ついた鳥を癒すラヤダーを知ることで、少女フリスは彼の奥底にあるあたたかい感情を知り、ふたりは<迷子の王女さま>と名づけた雁を通して知りあってゆく。最初の数年は飛び立っていってしまった雁も、ついには他の地方に渡ることなく、夏じゅうラヤダーの傍にいるようになっていた。そしてフリスはかすかな怖れをおぼえる。迷子の王女さまはここにいる。そして、自分は……?
少女の成長と孤独な画家の交流を通して、ひとや自然を愛する気持ち、国を愛する気持ちを伝えた逸品。特に後半、何か人の役に立ちたいといってフリスのもとを去り、戦争に身を投じたラヤダーのその後について語られる部分は、淡々と、しかし確実に何かを伝えてくれる。
興味のある人はロックバンド「キャメル」がこの小説をもとに作った「THE SNOW GOOSE」というアルバムがあるらしいので、そちらも。



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