「じゃ、きみは、ロマンチックな恋愛は両者が共有する狂気だと思うわけだ」
      
  「眠り姫」 ダニエル・キイス (秋津和子訳) 早川書房

 行方不明のふたりのティーンエイジャー。数日後、ふたりは銃で撃たれ川に放り込まれた姿で発見される。憤る少年の母親、泣き崩れる少女の父。そのころ、少女の母キャロルは深い眠りに落ちていた。幼い少女のころから突然眠りに落ちてしまう睡眠障害をもつキャロルは、眠りについたまま起き上がることがない。しかし眠ったまま、キャロルは精神科医と刑事の前で「ふたりを殺したのは夫のロジャーだ」と語り始め、事件は早期に解決したものと思えた。しかし、そのとき精神科医アイリーンはキャロルのことばに疑いをもつ。はたして、真実はどこにあるのか。キャロルのことばによって死刑が確定したロジャーを救うことはできるのか。
 物語は数年後、目覚めたキャロルがアイリーンと出会ったときから本格的に動き始める。けれど、深い深い根は彼らの過去に、それも遠い遠いむかしにさかのぼるのだ。読んでいるうちに次々にあらわれる奇妙な出来事に、ともすれば真実を見失いそうにもなってしまう。
 そもそもキャロルの周囲にいるのも一癖も二癖もある人ばかり。「眠り姫」であるキャロルを守ることを誓った四人の騎士。彼らのうちひとりは死に、ひとりは半身不随に、そして残るふたりのうちひとりは死刑判決を受けた夫のロジャー、もうひとりはその事件を立件した州検事。そして、キャロルの娘とともに殺された少年、ブーマーの母親エリカもまたキャロルと深いかかわりを持ち、不眠のためにキャロルと同じ医師にかかっている。そして、第一、その催眠療法を得意とする医師コーラーがもっとも胡散臭い人物でもあり、エリカがコーラーによって「生まれ変わり」を語り始めるシーンなどはいくらなんでもこんなことが、とことばを失いそうになってしまう。
 とはいえ、犯人は誰かというよりも、ひとのこころの複雑さ、そして「死がふたりを分かつまで」愛しあうことの難しさと尊さ切なさに感動できる一冊かもしれない。





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