かれは機械なのだ。なのにわたしはかれに恋してしまった。
かれはエジプティアといっしょにいる。なのにわたしはかれに恋してしまった。
かれは木枠の中につめこまれていた。なのにわたしはかれに恋してしまった。
ママ、わたしはロボットに恋してしまったのよ……
       
 「銀色の恋人」 タニス・リー(井辻朱美訳) ハヤカワ文庫

 時は未来のいつか。主人公のジェーンはお金持ちの十六歳の女の子だ。七つのとき、母親がジェーンのために理想的な体重と筋肉のつき方を調べてくれたために、ジェーンは六か月に一度カプセルを飲んで理想的な体重……少々ぽっちゃりした肉感的な体型を保っている。母親はまたジェーンのために皮膚と目の色にいちばん合う色彩チャートを作らせて、髪を淡いブロンズに保つようにもしてくれた。ジェーンはママのいい子、自分ひとりではなにもできないほどママに頼りきりの女の子。
 ママがいなくてはなにひとつ自分で考えることもできず、困ったことがあるとすぐに泣き出してしまうジェーン。けれど、自分に自信がなく、「自分」というものすら持っていないような彼女がとび色の瞳、赤褐色の髪に銀色の膚をしたシルヴァーと出会ったことで、少しずつ変化していく。自分がきれいだということを知り、自分には歌がうたえることを知るジェーン。シルヴァーを手に入れるためにいままで自分が持っていたすべてものものを……贅沢な暮らしも安全も母親も……失い、それでもなおかつふたりでいることの喜び。そして、感情豊かなジェーンといることで感情を持たないロボットのはずのシルヴァーも変わってゆく。
 ふたりの恋のラストは衝撃的だ。
 ママが選んだものではない、本来の姿、髪の色になったときのジェーンがわたしはとても好きだ。ジェーンをつねに支えてくれる親友のクローヴィスもいい。



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