「さあ、神無月だ――出番だよ、先生」
           
      「鹿男あをによし」 万城目学  幻冬舎

 大学院生の「おれ」は、さまざまな失敗や人間関係のもつれから、教授に勧められるままに大学院を一時休学し、奈良の女子校へ非常勤講師として出向くことになる。だが、そこには反抗的な生徒や、ひと癖もふた癖もある教員たち、そして喋る鹿がいた……
 鹿が喋るはずない、ただ神経衰弱が激しくなっただけなんだ、と思いたいものの、鹿から命じられたサンカクという異名を持つ"目"の受け取りに失敗し、印をつけられてしまったせいで、日に日に鹿へと姿を変えていくおれ。他人の目には人間のままだが、自分の目には鹿にしか見えない顔を元に戻すためには、"サンカク"、毎年行われる姉妹校との対抗戦において、剣道部の優勝プレートを勝ちとらねばならないのだ。弱小剣道部に優勝の望みはないと思えたが、なんと勤務当初から反抗的だった生徒、堀田が部に加わることで、優勝の望みが見えてくる。はたして大和杯に優勝し、無事にサンカクを取り戻すことができるのか……
 夏目漱石「坊っちゃん」へのオマージュ作品、といって間違いないと思う。文体はもちろん、「坊っちゃん」と重なるようなエピソードがいくつかあり、主人公の成長ぶりが描かれている。非常勤講師が担任を持つはずないだろう、とか、部活の顧問になるはずがない、というような細かいところで気になる点はあるが、それをいいだしたら、そもそも鹿が喋るはずがないとか、人間が鹿になるはずがないので、まあ、そのあたりは無視して読むべきところなのだろう。気楽に読める作品であることには間違いない。




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