もう、あの頃のボクには戻れない。
踊れない、走れない、歌えない、まともにセリフが言えなくなった障がいの残る身体がその証拠だ。
         
  「障害役者:走れなくても、セリフを忘れても」 柳浩太郎 ワニブックス

 引用した言葉に続けて、彼は書く。
 でも、事故に遭ったことで身体も気持もすっかり変わってしまった今のボクに、誇りを持っているのも、まぎれもない真実です。
 2003年12月、ミュージカル『テニスの王子様』の主役、越前リョーマ役の柳浩太郎は事故に遭い、高次脳機能障害を負った。バックダンサー志望だった帰国子女の高校生は、オーディション会場でもやる気がなく、ふてくされた格好でいたところが逆に認められ、主役に大抜擢。当初は敬語が使えないことから、年上の多い周囲になじめず、悩みの多い日々が続いたが、次第にわかりあい、仲間とともに作り上げる舞台に全力投球していた矢先の事故。バランスがとれず、まともに話せず、新しいことを記憶することも難しい。けれど、もう一度舞台に立ちたいという思いが、彼を懸命のリハビリへとかきたてる。
 順調すぎる生活を送っていた少年は、アイドルになったことで思いあがり、どんなことでもやれるような万能感さえ抱いていたのに違いない。だが、事故は彼に、他人の支えや努力することの大切さ、自分自身を受け入れることの大切さを教えた。だからこそ、彼は、
 「事故に遭って良かったとは決して言わない」と書きながらも、
 「もし、事故前の身体に戻してくれると言われたら、期間限定なら戻ってもいいけど、そうでなければ、戻りたくない。
 きっとそうなったら、オレ、調子に乗っちゃうから(笑)」
とも書く。
 自分を受け入れること。障がいをもっていても、夢をあきらめないこと。
 アイドルの書いた本なんて、と思っていたが、意外な掘り出し物。オススメ。




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