「これはエンジン・メーカーとしての、夢とプライドの問題だ」
       
  「下町ロケット」池井戸潤 小学館

 宇宙科学研究機構の研究員から、エンジン製作の工場、佃製作所を継いだ佃航平。これまでどおりのエンジン製作だけでなく、水素エンジンの研究開発にも力を入れてきた。しかし、取引先が減少し、銀行からの融資も難しくなってきた矢先、大手メーカーから特許侵害の訴えをおこされる。そもそもは相手側のナカシマ工業が佃製作所の部品を真似たものだが、特許の申請を隙なく上手にしていなかったことが問題だった。知財関係に強い相手側弁護士にいいようにあしらわれ、巨額の賠償金を請求された佃は窮地に追い込まれるが……――
 ただ働くのではなく、夢を持って働きたい。しかし、佃の思いを自分のことのように理解する社員ばかりではない。夢も大切だが、まずは安定した生活、金銭的な保証を、と望む若手社員とのあいだに広がる溝。その溝は、思いがけず飛び込んできたロケットに必要な水素エンジンのバルブシステムをめぐる依頼でさらに表面化する。特許を売るのか、特許使用料を取るのか、そうではなく、自分たちで部品供給するのか……
 夢と現実がそうそううまくいくことなんてない。でも、夢をなくしてしまったら、働く意味はどこにあるのだろう。
 銀行から出向してきたことで、佃自身もどこまで信用していいのかわからないと感じていた相手が、なによりも佃製作所のことを考え、佃の夢を理解してくれる。人と人とのつながりもあたたかい。さすが直木賞受賞作品。オススメ。



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