「あの男の子、はねられる前は笑ってました?」
             
 「死者の書」ジョナサン・キャロル(浅羽莢子訳) 創元推理文庫

 有名な俳優スティーヴン・アビイの息子として生まれ、いまなお、亡き父親のことばかりを知りたがる人々にうんざりしながら暮らしている「ぼく」、トーマス・アビイ。やる気のない生徒たちに英文学を教えることにうんざりし、教師を辞めることを決意したトーマスが思い立ったのは、子ども時代から大ファンだったマーシャル・フランスの伝記を書くこと。児童文学作家として数々のすばらしい作品を残したフランスの一生を記すことは、かねてからの夢だったのだ。そしてトーマスは、ひょんなことから知りあった同じくフランスのファンであるサクソニーを助手にして、フランスが半生を過ごした町ゲイレンへと向かう。そこにはフランスの娘アンナだけでなく、フランスを知る人々がいまだ多く暮らしているからだ。
 フランスが愛した小さな田舎町。しかし、アンナから伝記を書く許可をもらうため、数日をゲイレンで過ごすうち、トーマスは妙なことに気づきはじめる。ある朝、少年が小型トラックにはねられたときの人々の反応……トラック運転手の不可解な言葉。「これはおれじゃねえはずなんだ!」この町ではいったい何が起きているのだろう?
 そうか、これはどうしてもホラーになってしまうのか……と、小説好きなら思わずにはいられない設定(ネタばれぎりぎりか?)。それにしても、フランスやスティーブン・アビイといった、すでに亡くなった有名人といった存在の使い方がうまい。どちらもほんとうに架空の人物なのかどうか疑いたくなるほどである。そのあたりが、物語全体の設定とも絡んで、恐怖感を盛り上げる役にも立っているのだろう。ぞくぞく、というより、じわりとした恐ろしさ。真夏にどうぞ。



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