「ハイル・ヒトラー」ブルーノは、そのことばの意味を「さようなら、ごきげんよう」だと思いこんでいた。
          
   「縞模様のパジャマの少年」ジョン・ボイン(千葉茂樹訳) 岩波書店

 大都会ベルリンに暮らす9歳のブルーノは、ある日、お父さんの仕事の都合でシュウヨウジョという場所に連れてこられた。ベルリンの家に比べたらちっぽけな二階だての家、一緒に遊ぶ親友もいなければ、カフェもなく、厳しい顔をした軍人たちが出入りするような場所――しかも、フェンスの向こうには縞模様のパジャマを着たたくさんの人がいるようなのに、ブルーノがその人たちと話すことは決してない。フェンスのこちら側の子どもは、最悪な姉グレーテルしかいないのだ。
 そんなある日、「冒険」に出かけたブルーノは、フェンスのむこう側に座るひとりの少年と出会う。見たこともないほどやせて、顔色が悪く、悲しそうな顔をしたその少年は、ブルーノがそれまで聞いたこともないようなシュムエルという名前を持っていたが、ブルーノはその名前を風のひびきのようですてきだと思う。同じ年の同じ誕生日に生まれたことを知って、ブルーノはシュムエルを親友だと思うようになるが、ふたりはいつまでも一緒に遊ぶこともなく、ただフェンスごしに語りあうだけだった。そして、ブルーノがベルリンに帰る日が近づいて……――
 年齢よりも幼く、周囲でなにが起きているのか、ソートーさまが何者で、自分の父親がどんな人なのかも知らないブルーノ。無知ゆえにシュムエルを傷つけることがあっても気づかず、無知ゆえにみずからの身にまで大きな危険をもたらしてしまう。
 最悪の結末。しかし、最悪と感じたのはどの部分なのだろう……と、ふと思わずにはいられない。カーネギー賞の候補ともなり、30カ国以上で読まれている問題作。ラストについて、ぜひ読んだ人と語りたい。



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