「おれにだって、もとは慈悲心もあったし、おれの魂だって、かつては愛と人道に燃えていたんだ。ところが、おれは一人ぼっち、みじめな一人ぼっちだ」
          
 「フランケンシュタイン」シェリー夫人(澁澤龍彦訳)(「世界幻想名作集」所収)河出文庫

 幸福な少年時代を過ごし、愛らしい婚約者と頼もしい親友を持つヴィクトル・フランケンシュタイン。十三歳のときに錬金術に興味を持った彼は、長じて後、化学の教授によって新たな世界を開かれた。実験器具の使い方をおぼえた彼は、死から生命を創り出すことに夢中になったのだ。しかし、彼が創りあげたのは醜悪な容貌の怪物だった。
 メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」。中身は知っていても読んだ人がどれくらいいるかなと思うのだが、アンソロジーには「知ってるけど読んだことはない」「読んだことあるけどもう一度読みたい」物語が多数収められている。歌う自動人形オリンピアに恋をする青年の話「砂男」。「ジキル博士とハイド氏」(作者が「宝島」のステーヴンソンだってご存知でした?)。ポーの「黒猫」。カフカの「変身」。どれがも奇妙で醜悪で、だからこそ美しい。
 しかも作者および作品解説が丁寧。当時の時代背景や作者の置かれた状況等を考えながら、もう一度作品を振り返って読む楽しさもある。例えば、フランケンシュタインと彼の創造物との関係は、メアリー・シェリーの父親とメアリーの関係の暗示かもしれない……等。当時の女性の置かれた環境などを思いながら読むと、怪物の台詞の物悲しさや辛さが、なんだか別の意味を持っているような気がしてくる。



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