そうか、本当にすげえいじめられっ子だったんだな、とトモイチは声を上げて笑った。
 うん、本当にすごいいじめられっ子だったんだ、と僕も声を上げて笑った。
 すげえな、お前。
 それほどでもないよ。
 馬鹿、褒めてねえよ。
         
      「正義のミカタ」 本多孝好 双葉社

 高校時代、いじめられっ子として屈辱的な生活を強いられていた「僕」、蓮見亮太は、できのいい妹からすればカスのような大学だとしても、やっとの思いで高校時代の同級生たちの誰もいない大学に進学することができた。春。ようやく訪れた、明るい春。……と思っていたのもつかの間、もっとも避けねばならぬ相手だったはずの畠田が、なんと同じ大学に進学していたことを知る。目の前が真っ暗になり、とっとと大学を辞めて就職しよう……と思っていた亮太を救ったのは、金髪のサルのような青年、トモイチ。実は同じ大学1年生だというトモイチに救われ、いじめられ慣れて培われたその能力(?)をスカウトされて連れて行かれたのは「正義の味方研究部」。正義とはどうあるべきか、を考え、キャンパス内の平和を守る自治組織だった。正義の味方研究部の先輩たちに認められ、トモイチのおかげでクラス内でもいじめられることなく生活できるようになった亮太の生活は明るかったが、とあるサークルへの潜入捜査をきっかけに、亮太は改めて「正義」の意味について考えるようになる……
 亮太の語り口がなんとも複雑な心境にさせられてしまう。作者としてはそれなりにユーモアを出しているのかもしれないのだが、自分のいじめられ体験や、家の貧乏な様子を描くその部分が、どうしてもユーモアに思えないのである。笑えないのだ。トモイチのように、現在の亮太をまるごと受け止めている友人は笑えても、通りすがりの読者は笑ってはいけない、と思う。つまり、この小説は出だしの軽快さとは別に、軽い気持ちで読んではいけない話なのだと思う。軽く読み始めてしまうと、そんな自分が嫌になるような、なんとも味の悪い話なのである。そういうわけで、タイトルや出だしの明るさに惑わされず、覚悟を決めて読んでもらいたい。
 ……が、サイキン「あれ、おもしろいよね」「すっげーおもしろかった」という声をあちこちから聞く。彼らに覚悟が足りないのか、読書にそもそも覚悟なんてモノを求めてはいけないのか……複雑な心境である。
(……だからやっぱり本多孝好だから痛い話なんですって)




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