やはり、ではない。これですべて台無しではないか。
 しかし伊神さんは全く動揺した様子もなく、ひらりと室内に躍り込んだ。「まあ、そうでしょうね」
 ……何だって?

              「さよならの次にくる」 似鳥鶏 創元推理文庫


 「僕」、葉山は久しぶりに会った小学校時代の同級生によって、初恋の人、渡会千尋のことを思い出す。なにかといえば葉山に絡んでくる演劇部の柳瀬さんと、怪奇現象といえば必ず登場する伊神さんが解く、卒業式の日の謎「あの日の蜘蛛男」。初恋の人との思いがけない再会と、初恋の人がかけられた容疑を晴らすために活躍……するはずが、結局は受験前の追い込み中の伊神さんに依頼して解いてもらう「中村コンプレックス」など、<卒業式編>には、伊神さんが卒業する前の某市立高校の謎が収められている。
 そして<新学期編>。名探偵の伊神さんは卒業してしまい、2年生となった葉山だったが、美術部には新入部員が入ることなく、微妙な焦りを感じていた。そんなある日、曲がり角でごつん、という非常にベタな出会いから、1年生の佐藤さんと知り合うことになる。彼女のストーカーを退治するという使命を帯びた葉山を助けるのは、相も変らぬ演劇部のメンバー、三野と柳瀬さん、その他もろもろ。そして、演劇部の手助けあってしても解決しないとき、葉山が頼りにするのは、やっぱり伊神さんしかいないのだった……――
 連作短編の形で進む、伊神さん卒業前後の葉山くんたちを描く物語。もしかすると軽くネタばれになってしまうかもしれないが、そうか、この話って、伊神さんが主人公だったのか……! と強く思う2冊である。そういえば「理由あって冬に出る」のときも、全体の流れは伊神さんだったしな、と。
 つまり、実はこの物語は「シャーロック・ホームズの冒険」と同じく、葉山(ワトソン)の一人称ではあるが、主人公は伊神さん(ホームズ)であるのだ。
 個人的には、柳瀬さんがますますテンションアップしているあたりも見逃せない。文章も1冊目より読みやすくなっている。オススメ。




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