「いっつも第三者でいたいのね、要するに。人が怖いの? 人が自分の中に踏み込んでくるのが怖いの? それともみんなの中の一人になってしまうのがいやなの?」
            
 「六番目の小夜子」 恩田陸 新潮文庫

 地方の進学校に伝わる「サヨコ伝説」。三年に一度ずつの「サヨコ」。サヨコがするべきことはただひとつ。年にただひとつのそれを、だれにも自分がサヨコであることを気づかれずに成功させれば、その年のサヨコは勝ったことになる。
 そして「六番目のサヨコの年」。中途半端な端境期、高校三年生という揺れ動く時期を生きる関根秋、花宮雅子、唐沢由紀夫たちの前に、その名もサヨコという転校生が現れる。津村沙世子。二番目の、不慮の死を遂げたサヨコと同じ名をもつ転校生。はたして彼女はいったい何者なのか? 
 学園内にひそやかに伝わる伝説を掘り起こし、サヨコについて調べつづける関根秋。津村沙世子の思いもかけない「ふつう」さと、時折みせる奇妙な表情に魅せられて。沙世子はほんとうに六番目のサヨコなのか。そもそも、サヨコとはいったいなんなのか。
 物語のほとんどは、おそらく読者にもおぼえのある、なつかしい高校生活のひとこま、そのつながりだ。部室でのおしゃべり、学校帰りの寄り道、親しい仲間だけで遊びにいく夏の終わりの海。その中に異物のようにはさまれているのはサヨコなのか、それとも受験勉強のほうなのか。わたしには、こんな関根秋のことばがひどく印象的だった。

―――そう、たしかにこの、地方の進学校に所属する自分たちの選択肢は二つに一つしかない。大学に受かるか落ちるか。これって、なかなかすごい状況だ。受験戦争だの偏差値教育のゆがみだの手垢にまみれた表現で騒ぎたてる以前に、生活レベルで既にそういうことになっている。

 サヨコは、わたしの学校にもいたのかもしれない。


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