「ちがうの、おかあさん、その反対よ。算法がつまらぬ遊びなどでない、立派な勉強だから、わたしだってお屋敷によばれるのですよ」
                
  「算法少女」遠藤寛子  ちくま学芸文庫

 医者である父から算法の手ほどきを受けて育ち、みずからの算法の問題を解くことを楽しみとしていた少女あきは、ある日、観音さまに奉納された算額のあやまりを見つけ、思わず声をあげてしまった。思いがけないことからその話が広まり、算法好きの久留米藩主が姫の算法指南役にとあきを指名する。当初、お屋敷にあがるなど考えてもいなかったあきだが、家計の苦しさを助けるためにも、好きな算法で身が立てられるならと、屋敷にいくことを承諾する。しかし、上方算法に敵意をもやす関流の藤田貞資はそれを苦々しく思い、算法くらべを行うことを提案する。
 江戸時代に、こんなにも算法(算数)が広まっていたのかと驚くばかりである。特にあきは、算法好きの父親の教えもあって、ひまさえあれば算法に取り組んでいる。役に立たないものをそんなにしても仕方ない、と、母親にはしかられるが、あきは自分が学んでいる算法は決してつまらぬ遊びなどではないと思っているし、周囲の子どもらも、自ら進んで、あきに算法を教えてもらいたがる。
 学ぶよろこびと、学びを深めていく充実感。父の友人である谷素外の助けもあって、あきは父とともに「算法少女」という本を出版することになるが、なんと、これは実在の書なのだという。江戸の町に暮らす少女が、どんな風にみずからの学びをまとめたのだろう――実際の本を眺めてみたくなった。




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