密やかに――そう、密やかに、そして巧妙に。
猫が獲物を捕らえるように、裏切り者に死を。
                
 「裁くのは誰か?」ビル・プロンジーニ、バリー.N.マルツバーグ(高木直二訳)  創元推理文庫

  合衆国大統領として任期終盤を迎えたニコラス・オーガスティンは、古風なキャンペーンが大衆うけして選ばれた人物であったが、いまになって、彼の発言はことごとく誤解され、人気は急落。彼自身の思いとは別に、再選の見込みはほぼないものと思われていた。誤解を招く発言を繰り返し、それによってまたひねくれていく夫ニコラスを心配する聡明な妻、クレア。だが、ニコラスが誰より信頼し、心の中を打ち明けているのは、若きシークレット・サーヴィスのクリストファー・ジャスティスだけだった。内政担当首席補佐官も、報道官も、司法長官さえも信頼ならない。そんな中で発生した殺人事件。それは大統領を守るため「われわれ」が成し遂げた正義だった。しかし裏切り者はまだどこかにいるはずだ。「われわれ」は大統領のために、裏切り者には死を与えなければならない。
帯で森博嗣はこう書いている……
「これを読んだときは『ぎりぎりだ!』と思った。今でも、これがミステリィの最先端だろう」
 ……いや、ほんと。ぎりぎりだ(笑)。
 「われわれ」が「わたし」と葛藤する独白シーンなどから、どうやら犯人が多重人格者であることは、かなり早い段階で読み取れる。しかし、いったい誰が多重人格者「われわれ」なのか……という部分は、あやしい人が多すぎてわからない。しかも、最後の最後のオチときてはもう、ぎりぎり、っていうか、こんなん許されちゃうのか!? と叫びだしたくなること必定。
 最先端ミステリ。この裏切られた感覚を味わいたい人は、ぜひ。



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