時はひっそりと過ぎてゆき、私は書き、祈りを捧げ、瞑想し、眠った。そして静かな池のかたわらで目を覚ました。
             
 「内海の漁師」(「内海の漁師」所収)アーシュラ・K・ル・グィン(小尾芙佐・佐藤高子訳) ハヤカワ文庫

 惑星Oで生まれ育った少年ヒデオは、成長してハインにある<エクーメン学院>に留学した。惑星Oでは分散した村、農場組合が基本的な社会単位になっており、性生活と密接に関わる社会的な取り決めがほぼ全土に普及している。すべての人々は生活時間が真夜中から正午までの<朝族>と正午から真夜中までの<宵族>とにわかれ、近親交配をふせぐためにセドレツと呼ばれる結婚は、<朝>の男女ひとりずつと<宵>の男女ひとりずつとによって成り立つ。異性同士のペアと同性同士のペアが組み合わさったグループ婚なのだ。
 惑星Oから遠く離れ、ハインでの研究生活を続けていたヒデオが故郷に戻ったのは18年後。しかも亜光速航行によって4歳年下の妹は4歳年上になり、彼がかつて愛した人々によって、新しいセドレツができていた。慣れきったはずの孤独を改めて突きつけられてしてしまうヒデオ。しかし、彼には研究があった。チャーテン理論。瞬間移動のシステムである。そしてある日、チャーテン場に入ったヒデオを待ち受けていた事故とは……
 短篇集。といっても、後半の3本、アンシブルやチャーテン理論に関するものは中篇なみの長さがあるし、一方で「ゴルゴン人との第一接近遭遇」などはショートショート並みの短さ。いろいろ入っていて楽しめる、といったところである。「内海の漁師」もそうだが、「物事を変えた石」や「ケラスチョン」などは、新しい文化との出会いという楽しさを与えてくれる。
 そしてなによりわたしが気に入ったのは、実は「はじめに」。「SFを読まないということについて」と題した部分には、SFを読まない人や、SFを読まないけれども、いちど鼻をつっこんでみた人たちがよく口にする台詞というものが書かれている。そうそう、そういうことよくいう人いるよね! さらにはル・グィンがなぜSFが好きなのかも書かれている。
「イマジネーションの鮮烈さと壮大さ、そして明晰さ。メタファーの遊びと多様性、そして強烈な衝撃。因習的な文学の覊絆(きはん)やマンネリズムからの解放、真摯なモラル。ウィット。しゃっきりした恰好よさ。そして美しさ」
 そうなんです。だからわたしもSFが好き。



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