それでもぼくらは男の子で、男の子だということが気に入っていたし、フロリダのある町に住んでいて、その町も好きだったし、学校にかよっていて、その学校もかなり好きだったし、木登りやフットボールをやり、お母さんやお父さんが好きだったものだ。………
        
 「ウは宇宙船のウ」 レイ・ブラッドベリ(大西尹明訳)創元推理文庫

 ここにあるのは宇宙への憧れと、新しいテニスシューズをはじめてはいた日のよろこび、恐竜への郷愁と……すてきな、どこかなつかしいものばかりだ。
 レイ・ブラッドベリはエドガー・アラン・ポーやラブクラフトを愛し、気味の悪いぞっとする話もいくつか書いているが、この短編集の中に収められている作品を読んでも、その一片が感じられるかもしれない。たった一匹の蝶で変わってしまった未来、降り続きやむことのない金星の雨に打たれて狂っていく調査隊員たち。とはいえ、やはりここにあるのは果てなき宇宙への憧れと夢とよろこびと。少年の夢のすべてがつまっている、といったほうがいいだろう。宇宙のことしか考えられなくなって、勉強も手につかなくなってしまった少年の心は、だれもがよく知るものではないだろうか。
「宇宙船乗組員」という短編は、そんな、宇宙に憧れて憧れてついに宇宙船乗組員になった父親をもつ少年の話だ。地球にずっととどまっていることができずに宇宙へと飛び出していく夫を哀しそうに見る妻。そんな母親をなぐさめるために心尽くす少年の姿はせつない。
 とはいえこの中でわたしが好きなのは「宇宙船」。これは明るい家族愛とよろこびに満ちた話だ。宇宙になどいけそうもないほど貧しい父親が子どもたちに最高の贈り物をする。
「いいかね、いつもよく耳をすましておくんだぞ。宇宙船の匂いをかぐんだ。感ずるんだよ。おぼえておくのだよ。そうすれば、帰ってから、これから一生、楽しい思い出話ができるんだからね」
 感ずるんだよ。おぼえておくんだよ。耳をすまして。
 宇宙へのせつない憧れをここまで描ききった作品は、他にはあまりないように思われる。



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