自分たちは、一本のワイアーの両端でこうして出会ってしまった。実際に会ったことはなくても、心と心がつながってしまった。同性であることなど、どれほどの意味があるだろうか。
           
    「REVERSE」 石田衣良  中央公論新社

 ファッション系の輸入商社ゼブンシップスで働く丹野千晶は東京で一人暮らしをするばりばりのキャリアウーマン。折しも新しいブランドの企画を立ち上げるためのプレゼンに向かおうとしているところだった。そんな千晶を励ましてくれるのは、かわいくてやさしいメールをくれるキリコ。ヴィレッジゲートという新進のソーシャル・ネットワーキング・サービスで知り合ったキリコは、深夜でも千晶を励まし、心に寄り添うようなメールを送ってくれる女の子だ。問題があるとしたらただひとつ、ネット上での千晶はアキヒトという男性のふりをしていることだった。
 一方、よろこび企画という伸び盛りのIT企業でホームページの制作をしている大久保秀紀は、数年前につきあった女性と手酷い別れ方をしてから、自分に好意を持ってくれる女性とうまく付き合えずにいた。そんな悩みを打ち明けられるのは、ネット上で偶然知り合ったアキヒトだけ。爽やかな好青年っぽいアキヒトとは妙にうまがあい、何でも打ち明けられるのだ。問題があるとしたらただひとつ、ネット上の秀紀はキリコという女性のふりをしていて、相談も男女を逆にして問いかけていることだった。
 ネット上でそれぞれに性を偽って知り合った男女が、メールやチャットの交換でどんどん仲良くなっていく。互いの職場での人間関係やら何やらも丁寧に描かれており、互いに女であること、男であることに疲れているふたりは、「人間は性差よりも、個体差のほうがずっとおおきい」ということで同意したり、恋愛について語りあったりすることで慰められているのだ。そんな日々が続くと、ふたりとも同性愛の傾向はないが、そんなことがごまかしにすぎないのでは……と自分自身を不安に思うほど、キリコにとってはアキヒトが、アキヒトにとってはキリコが、どんなときでも自分の心に寄り添ってくれるかけがえのない存在となっていってしまい、相手を騙していることが心苦しくなってくる。迷いつつ、けれど打ち明けられもせず。そんな状態をずっと我慢していたふたりが、どうしても会いたくなっていく過程も見事。
 REVERSE(両刀使いの意味もあり)というタイトルも、なかなか含みがあるなあ……と思ってしまったりする一作。



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