鷲津の本能は、命懸けの勝負に飢えている。期待に応えるふりをして、全員を出し抜き、涼しい顔で一人勝ちする。
        
 「レッド・ゾーン」真山仁 講談社

 
 ……と、いうわけで(「ハゲタカU」参照)、アランの死から立ち直りつつある鷲津ではあるが、そんな彼の前に、アランの死の真相を知りたくないか……と話を持ちかけてきた男がいた。王烈。中国投資銀行の名のもとに、数々の買収劇を繰り広げてきた男である。王と組む気などさらさらないが、しかし、アランの死の真相が気にならないわけがない。
 一方そのころ、日本最大メーカーアカマ自動車は敵対的買収から生き延びるため、あらゆる手段を模索していた。そして、その中には元三葉銀行の芝野、そしてもちろん、サムライ・キャピタルの鷲津の名もあった……――
 すっかり日本企業の味方になって、中国やアメリカの敵対的買収に対するホワイトナイトと化した風の鷲津だが……いやいや、まさか。敵対的だろうが友好的だろうが、買収は買収であるし、この人がそんな「いい人」であるはずもない。という期待感を持って読みすすめるのが、この小説の正しい読み方か。
 脇役に見えていた人が意外な役割を果たす一方、中心人物に見えていた人が小物だったりする驚きもあり、新しい登場人物たちはそれぞれに魅力的。その一方で、松平貴子の存在が薄れてしまったり、これまでの「ハゲタカ」ファンとしては残念な一面もある。アカマ自動車に重きをおくのはよいが、もっと多方向にわたる買収劇も見たかったかなあ……とか。といっても、「ハゲタカ」「ハゲタカU」「レッド・ゾーン」と、それぞれに違った魅力を出したのかも、とも思えるし、アランの死の真相を知るためにも、この本はぜひ読んでもらいたい一冊。オススメ。



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