「本当に走るのが好きなんだな」
「うん。大好き」
               
 「ららのいた夏」 川上健一 集英社文庫


 野球部の小杉純也は、運動会のマラソン大会で今年もまたぶっちぎりで優勝するつもりだった。しかし、彼の後ろにぴたりとくっついてきたのは、陸上部にも所属していない1年生の女の子、らら。彼らは走りながら言葉を交わし、最後は同時にゴールした。誰も知らなかった1年生女子の活躍に、陸上部の監督を始めみなの目が集まるが、ただ走ることが好きだというららは、陸上部には所属せず、市民マラソンや駅伝などに参加していくようになる。そして、どこでも伝説的な記録や話題を残したららには、オリンピックすら視野に入ってきた。一方、運動会のマラソン大会以後、ららの毎朝のマラソンコースである海岸を一緒に走るようになっていた純也は、朗らかなららとの付き合いを深めていく一方、プロ野球スカウトの目にとまり、プロデビューすることが決定する。他人の目を気にすることなく、ただただ自分の気持ちに正直ならら。けれど、そんなある日……
 まさかの展開に泣きました。こんなことってあるんでしょうか。
 ともあれ。ふたりのさわやかな恋からは目が離せないし、ららの活躍ぶりも見事。マラソンって、テレビで眺めていてもただ走ってるだけなのに目が釘付けになってしまうものだが、小説になってもやっぱり目が離せないんだなあ……と、「風が強く吹いている」と(その部分では)似たような感想をもってしまったりも。
 最後の目を疑う展開まで、ぜひ。



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