奈緒はカウンターの前にしゃがみこんだ。思わず両手で頭をかかえた。目に飛びこんできた店主らしい男の姿は巨大で、その容貌はまったく日本人ばなれしていたからだ。
「おいしいとんこつみそ風味ラーメンは、一杯たったの百円でございまする。さあ、そんなところにしゃがみこまないで、カウンターの前にすわってくださいな」
            
  「絶品らーめん魔神亭」 たからしげる ポプラ社

 新しく引っ越してきた町で、散歩の途中に迷い込んだ森の中には、信じられないほどおいしいとんこつみそ風味ラーメンを格安で出すお店が。その店は、ぼんくらなランプの持ち主が、願いごとをしたまま、自分が何を願ったかを忘れてしまったため、願いが成就するまでランプの中に戻ることのできないランプの精……アルモリアノ・シーカンケチャクラッパ、通称アルが開いているお店だった。引っ越してきたばかりで心細かった奈緒は、すぐにアルと仲良くなり、偶然にもランプを拾っていたことから、アルの新しい主人となる。だが、それはひとつめの願いごとの主が現れるまでのこと。
 一方、本当のランプの持ち主、本間伊太郎はそのぼんくらぶりから、ランプのことも願いごとのこともすっかり忘れていたのだが、伊太郎の友人で悪知恵のはたらく坂田は、ランプを手に入れようと動き始める……
 「森のおくでひっそり営業中」「初恋はとんこつみそ風味」「ゴマダレ冷やし中華のわな」と続く作品の中で、奈緒はお隣に住むサッカー部の斉門との初恋にうきうきしたり、ちょっとやきもちやいてみたり……と、魔神亭以外のことでも忙しい。とはいえ、ぼんくらな伊太郎だけならともかく、悪がしこい坂田の手から、ランプとアルを守り切ることができるのか!?
 わくわく楽しんで読める作品。



オススメ本リストへ