「魔女たちは、あのような子どもの話をしたことがあります。べつの場所――この世界ではなく、はるかむこうの世界――で果たされる、重大な使命をになった子どもの話を。その子がいなければ、われわれはみな死ぬことになるのです」
              「黄金の羅針盤 ライラの冒険T 」 フィリップ・プルマン(大久保寛訳) 新潮文庫

 両親を早くに失い、オックスフォード大学のジョーダン学寮で暮らすライラ。勉強があまり好きではなく、男の子たちの先頭をきって悪ふざけをしたりしておもしろおかしく暮らしているライラだが、ある日、おじであり有力者でもあるアスリエル卿が大学にもたらした情報を知ってしまったことから、思いもかけない事件に関わってゆくことになる。世界のあちこちから誘拐され、実験材料にされている子どもたち。守護精霊のパンタライモンとともに子どもたちを救うために冒険に乗り出したライラ。彼女とともに行くのは、ジプシャンや魔女、そしてよろいをつけたクマなどの一行。果たしてライラは子どもたちを救うことができるのか?
 全三部作の第一部。第一部はこの世界にとてもよく似ているが、守護精霊がいたり、物理と神学が混じってしまっていたりする世界で、少女が活躍する物語。第一部読みきりではなく、ラストが思い切り「第二部につづく!」状態で終わるので、先が読みたくなることは請け合いなのだが……なにせ、登場人物が悪者ばっかり(というか……あまり好きになれないタイプばっかりというか)。
 アスリエル卿ももちろん、謎の女性コールター夫人、学寮長、よろいをつけたクマ、主人公のライラにいたるまで、誰がどこまでどんな風に本当のことを話しているのか、この人のどこまでをどう信じていいのかさっぱりわからず、裏読みしたくなる(が、裏読みをしていると、それほど悪人じゃなかったりもするので、そのあたりの加減が微妙)。
 でも、ペアになっている人間が子どものうちは、その感情にあわせて姿を変え、大人になると、その人をもっともよくあらわす姿のままに固定される守護精霊(ダイモン)の愛らしさなどは格別だし、"ダスト"という謎の物質のことなどもまだまだ先がありそうなので、とりあえず、先が気になる話であることはたしか。ということで、第一部のオススメはおさえておく(うーむ、微妙すぎるススメ方だが……悪者ばっかりっていうのがねえ……)



「神秘の探剣 ライラの冒険U」
「琥珀の望遠鏡 ライラの冒険V」
オススメ本リストへ