「人は煽てられて木に登る。だが、自分で試行錯誤を繰り返すうちに、買い被りがやがて本物になる。僕はそういう可能性を君に感じた」
           「一俵の重み」(「プライド」所収) 真山仁  新潮社

 新政権が鳴り物入りで始めた行政刷新会議による、通称「事業仕分け作業」会場。“必殺仕事人”とも呼ばれるヒステリックな美人議員と、農水省随一の変人といわれる異端の官僚とが激突する。かつて大学院で農業を研究し、コメ作りのエキスパートともいわれる米野は、なぜ官僚となり、いまの日本で何を成し遂げようとしているのか……
 短編集。
 作者があとがきで書いているように、どの作品も、さまざまな職場で必死に生きる人々を描いている。
 何のために人は働くのか。どうすれば矜持を守ることができるのか。
 それを守るために、どのくらいの犠牲に堪えられるのか。
 あるいは、犠牲を払ってまで守るプライドとは何なのか――。
 表題作「プライド」では、ある老舗の洋菓子メーカーで、期限切れの原材料を使用しているという内部告発がなされたことをきっかけに、創業者の思いや職人の願い、現場の苦しみなどがあぶりだされてくる。確信犯的になされたと思われるその内部告発の理由が明らかになったとき、調査員だけではなく、読み手もまた「プライド」の意味を知るだろう。
 中学生や高校生では、まだまだどんな仕事に就くのか想像もしていない人もいるかもしれない。しかし、どのような職であっても、プライドを持って働くことは大切だし、そのために犠牲を払って必死に生きることも大切だ。身近な大人たちの理解につながるかもしれないし、働くことの意味を考える役に立つかもしれない。
 「ハゲタカ」とはまた違った魅力にあふれた作品。オススメ。



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