カオナシの場合、存在感がないか、ありすぎるか、のどちらか。両極端だ。バランスを欠いている。おとなしく無気力に見えながら、いきなり切れて、とんでもないことをしでかしたりする現代の日本人。カオナシはそんな現代人を象徴したものだともいわれる。
          
  「なぜポニョはハムが好きなのか:宮崎アニメの思考」 荻原真   洋々社

 『となりのトトロ』のサツキとメイは、さわやかな晴天の中、デコボコ道を楽しく車で引っ越し先に向かう。「生きる」ことの象徴である、キャラメルを食べながら。新居に到着したら、とたんに走りまわって、はしゃぎ回る。一方、『千と千尋の神隠し』の千尋は、車の後部座席でふてくされている。両親が食べても、千尋は食べない。暗いトンネルでは足がすくみ、母の腕を両手でしっかりつかみ、ぴったりと寄りそう。――この対比は、意図的に生み出されたものだろうか?
この本では、宮崎駿作品に出てくるいくつかを、いろいろな角度から考察している。
 「都会と田舎」「働く子ども/働かない子ども」「しゃべる者/しゃべらない者」「ローテク/ハイテク」「若者の恋/中年の恋」……
ポニョは水道水を入れられたバケツの中で泳ぎ、ハムを食べるが、ポニョの父親であるフジモトは足もとに深い海のきれいな水をまかなければ歩くことが出来ない。これはいったい何を意味しているのだろう。
 漠然と眺めていては見過ごしてしまうものに焦点をあてると、新しいものが見えてくる。アニメなんてただ楽しんで観ればいいじゃん、って思うかもしれないけれど、逆にいえば、どんなに楽しいものも、じっくり考えることで研究対象にできる、ということでもある。
 宮崎アニメは、ほとんど誰でも知っているし、文章も読みやすいので、楽しく読めると思う。オススメ。




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