あなたは幸せ? でないならパーカー・パイン氏に相談を。
         
      「パーカー・パイン登場 」アガサ・クリスティー(乾信一郎訳) 早川書房

 個人広告欄に目を向ければ、そこにはいつでもこんな広告が載っている。ばかばかしい、と思いつつも、振り返ってみればさて自分はしあわせだろうか?
 自分の人生が退屈でつまらなくて、夫や妻に裏切られているようで――そんな不安をもったら、パーカー・パイン氏におまかせ。なにせパーカー・パイン氏は三十五年間、ある官庁で統計収集の仕事していた人間心理の達人。なにもかも、統計的に考えれば答えはカンタン。しかもパーカー・パイン氏には世界的に有名な女流推理作家やジゴロ、妖艶な美女などなど、豊富な経験と特異な才能をもったスタッフが多数揃っている。――さて、あなたは幸せ?
 実はわたし、パーカー・パイン氏の物語ははじめて読んだ。あまりのおもしろさにびっくり。ただし、前半の人助け(?)から、後半、突然ポアロのようにあちこち旅に出かけて事件を解決するようなところに至ってはやや面白みは半減。残念である。
 訪れるのは夫が若い女にうつつを抜かしているのに憂鬱な妻、危険などかけらもない日常に退屈している軍人、妻に離婚を言い渡されそうな愛妻家。しかし、中でも「大金持ちの婦人の事件」がいい。
 貧乏暮らしから一生懸命誠実に働いて大金持ちになったひとりの夫人。ともに苦労した夫も病死し、いまではざくざく入ってくるお金をもてあましている。最初こそ楽しかった一流店での食事や買い物、旅行……それらが楽しくなくなってしまったのだと、彼女はパイン氏に訴える。古い友だちは生活の格差から近寄らなくなってしまったし、新しい人たちは寄付をねだるばかり。友だちもいないさびしい生活。こんな彼女を、パイン氏がどう幸せにしたのか――それは読んでのお楽しみ。パイン氏の仕掛けももちろんだが、この大金持ちのライマー夫人のたくましさ、すがすがしさに、きっと気持ちがよくなることに間違いない。実はわたし、思わず最後で泣きました。オススメの一冊。



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