「復讐は神のものです。確かに、彼らは邪悪な人間たちでしたが、神はあなたに彼らを殺す免許を与えてはいません」
 男は振り向き、神父を見た。
「もし神が存在するなら」と彼は言った。「時々は免許を発行するかもしれない。もし存在すればね」

                      「パーフェクト・キル」 A・J・クィネル(大熊栄訳) 新潮文庫

 クリーシィ・シリーズ、実は初めて手にしたのは三巻めの「ブルーリング」。合宿中だったのだが体力の限界まで読みふけった。これほど夢中になった本はひさしぶりだった。
 まず、主人公クリーシィがいい。
 元傭兵。英語・イタリア語・フランス語を話し、武器商人と通じ、超人的な殺人技術を持つ。そして「個人的な復讐のためにのみ動く」。ここがポイント。少女ひとりのためにマフィアをぶっつぶし、「私怨」が理由で、世界的なテロ組織の壊滅に乗り出す。でもってやることが派手。バズーカ砲で車をぶっとばすなんて、この人じゃなくちゃやらないだろう。
 さて、「パーフェクト・キル」では、復讐に立ち上がろうにも自分の歳を考えたクリーシィが、ただ殺人兵器とするためにのみ、養子をもらい、育て上げるということになる。しかも養子をもらうにあたっては「妻」がいなくてはならない、ただその理由だけで女優に妻の役をさせるクリーシィ。だが、人間は「兵器」ではないし、いつまでも「女優」ではない。彼らがひとりの少年、ひとりの女性としてクリーシィにつきつける感情、そのことへのクリーシィの戸惑い、そして昇華。感動的でさえある。
 シリーズ内では、「燃える男」「ブルーリング」が話の盛り上がり、アクション等でおもしろいのだが、この「パーフェクト・キル」。情緒的な部分で捨て難い作品だ。


 2000年4月、集英社からもシリーズ復刊が復刊されるらしい。おそらく、訳者も一緒。
 どうなってんだ?


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