「狂気だわ」と、リーはつぶやいた。「だけど、なんと心の安らぐ狂気なのだろう。いつまでもこの状態でいることさえできたら―――」
          
「果てしなき旅路」 ゼナ・ヘンダースン(深町真理子訳) ハヤカワ

 その昔、滅びゆく〈故郷〉を離れて遠く旅立った人たちがいた。彼らの宇宙船は遭難し、地球と呼ばれる惑星にたどりつく。人間そっくりの彼らは強い愛と信仰で結ばれていたが、〈同胞〉(ピープル)以外の人間には隠さなければならない秘密をもっていた。彼らは超能力が使えたのだ。己の能力を〈外界人〉、ピープル以外の人間に知られぬよう厳しい掟の中でひっそりと暮らすピープルたち。けれど、彼らの中にもよろこびが、愛が、そして進歩があった。この二冊の中で語られるのは、そのような話である。
 同胞のために物語を〈収集〉している、という形でこの連作短編集は成り立っている。それぞれの立場のそれぞれのピープルが肉声で語るこの物語は、それがある特定の人物の視点から語られるためによりいっそう身近に感じられるものとなっている。遭難し、ばらばらとなったピープルがどうやって同胞を探し出し、ともに力を合わせて生きるようになってゆくか。ときには絶望にも近い思いを抱きながら、彼らが前進していくさまは力強い。
 さて……「果てしなき旅路」「血は異ならず」のうち、「果てしなき物語」では教師と子どもたちの関係が非常に重きを占めている。わたしはその中でもメロディが語る話がとても好きだ。己の能力を隠すため、抑えつけられ、必要以上にひっそりと生活しているピープルの子どもたちに、ただの人間にすぎないメロディがピープルとして生きるよろこびを教えてゆく。自分で手本を示すことはできなくても、それが己の能力以上の技であっても、相手の力を引き出すことはできる。メロディの教師としての力に、思わず脱帽してしまうのである。



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