ああ、どこかに、身を隠し、自分ひとりだけで、だれの邪魔もせず、だれの心配もうけずに、自分の思うだけ長くいられるところはないのかしら? この世に、彼女が大きな声で――最後に、泣けるところはないのだろうか? 
              
  「パーカーおばあさんの人生」(「マンスフィールド短編集」所収) マンスフィールド(安藤一郎訳) 新潮文庫

 パーカーおばあさんのことは、誰でも「つらい暮らしをしているね、パーカーおばあさんも」という。16さいのときストラットフォードを出て、ロンドンで台所女中になったパーカーおばあさんは、朝から晩まで働いた。13人の子どもを産み、そのうち7人の子どもが亡くなった。6人の子どもがまだ小さいうちに夫が死に、それでも女手ひとつでがんばってきた。けれど、いまは……いま、彼女には耐えがたい、どうしても耐えがたい出来事があった。なのに彼女にはひとりきりになれる、自分だけの場所がない。
 その名のとおりの短編集。
 少女たちの無神経な無邪気さを描いた作品もいくつか収められている。「園遊会」は、そんな無神経な自分にふと気づいてしまった少女の羞恥と哀しみが描かれているといっていいだろう。けれど、そんな少女が成長すれば、己に気づき、恥じ、けれど同じことを繰り返す女になるだろうことが「新時代風の妻」などから読みとれてしまう。
 身分制度がまだまだ残る社会で、遊び暮らす階級と働きづめの階級とを見事に切り取った点でも、小粒ながらきらりと光る作品群。華やかさと、その中に隠れた影と。
 それにしても、思わず「エマ」を思い出してしまった自分をふと反省してしまいましたよ、わたしは……



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