これまで自分が絶対と信じていたものが、次々と壊れていくのを彼は感じていた。
            
 「パラドックス13」東野圭吾  毎日新聞社

 世界の首脳陣のごく一部にしか知らされていなかった現象――P-13現象。その日、世界全体、否、宇宙全体が13秒間スキップしてしまうのだという。だが、基本的にはそれを把握できるものはだれ一人いない。未来や過去に移動するわけではなく、ただ、13秒間を失う……ただ、それだけのはず。しかし、万が一の事態を考え、その日のその間だけはじっとしているようにとの通告がなされた。何かが行き過ぎるのを、息をひそめて待てばよい、と。
 だがその日、久我誠哉は強盗殺人犯の確保に集中しており、無闇に動くなという指示に従えるはずもなかった。折しも、所轄の巡査をしている弟の冬樹が事件に顔を突っ込んできてしまい、思いもかけなかった銃撃戦が始まってしまう。胸を撃たれた誠哉、つかまっていた車の中から銃撃された冬樹。
……次の瞬間、冬樹は、誰も運転していない車につかまっている自分に気づく。人の乗っていないあらゆる車が暴走し、衝突している。瓦礫の山。人の姿のない都心。いったい東京は、世界はどうなってしまったのか。さまよう冬樹は、ようやく同じようにこの世界で生きる人々を発見し、兄の誠哉とも再会するが、彼らもまた、誰一人として状況を把握してはいなかった。頻発する地震。食料も限られている。これまでの常識を忘れなければ、生きていくことさえ難しい。リーダーシップをとる優秀な兄へのコンプレックスを抱えながらも、冬樹は兄とともに残された人々を守り、生きていこうと決意するが……
スティーヴン・キング「ランゴリアーズ」と非常に近いものがあるかもしれない。突然異世界に放り込まれた雑多な人々が、力を合わせて生きていこうとする物語。登場人物はいい人ばかりではなく、会社の上下係を固持しようとしたり、つらい過去を引きずったまま立ち直れずにいたりする。しかしまあ、そこは東野圭吾なので、ラストはご想像のとおりである。
ともあれ、この作品を読んだあとには、「ランゴリアーズ」も、ぜひ。




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