「一緒にいて安心できる人はいるけど、彼女には指輪は合わないし、探している子と全く違うタイプなんだ」
 西澤は笑って「いい方法があるぞ」と言った。
「指輪に合わせて、その子の指の肉を削ったらいい」
              
「金の指輪(シンデレラ)」(「おとぎのかけら」所収) 千早茜  集英社

 若くして金銭に不自由なく暮らす「ぼく」は、かつて幼い頃に通っていたピアノ教室の先生の娘に恋をしていた。もしかすると恋とは違う感情だったのかもしれないが、彼女の小さな白い手や、細い指は忘れ難く記憶の中に残り、父が亡くなった数日後に訪ねてきたという彼女が忘れていった金の指輪を、「ぼく」はいまでも持ち続けている。あの白い手に、もう一度ふれたいと願って彼女を探し続けているが、彼女の顔も名前さえもおぼろとなったいまでは、頼りになるのは金の指輪しかない。だが、その小さく華奢な指輪にあう女性は、いまだ現れないのだ。そんな「ぼく」に、友人の西澤は多くの女性を引き合わせるが、実は、「ぼく」自身にも気になる女性はいた。父の姉を介護するヘルパーで、庭仕事を好む朗らかな女性だ。心があたたまるような会話と、これまで感じたことのない親近感。しかし、庭仕事をする彼女の手は、ごつごつとして日に焼けている……――
 西洋童話を日本に置きかえた物語。虐待されて家を出た兄妹が、美味しいお菓子を食べさせてくれる若い女性に出会う「迷子のきまり(ヘンゼルとグレーテル)」や、かつてクラス中から苛められていた同級生と再会してしまう「鵺の森(みにくいアヒルの子)」といったブラックなものが多く、全体には「本当は怖いグリム童話」調。
 童話を改訂した物語が好きな人や、怖い話が好きな人にオススメ。



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