こんなアホな日々が明日も明後日も来年もずっと続くとみんなが信じている、受験もまだ差し迫っていない脳天気な日々。“体中が筋肉、脳みそまで筋肉”な毎日。
             
   「オン・ザ・ライン」朽木祥  小学館

 高校入学早々、別の中学から来た貴之から硬式庭球部に誘われた「俺」、侃(カン)は、ジュニアの大会で優勝し、将来を嘱望されているというサユリに一目惚れし、そのままテニス部に入部することを決意する。しかしいつしかサユリのことなど忘れ、弱小テニス部ながらも、テニスクラブ出身の貴之や亮介の熱意によって、自分たちで練習プログラムを組み、どんどん強くなっていくことが楽しくてたまらなくなっていく自分がいた。同じく弱小のサッカー部の連中も、みんな脳みそまで筋肉のオールマッスルズ。5年前に共学化するまで男子校だった風潮がまだまだ強くて、なにかといえば脱ぎたがる連中もいて、一緒に脱ごうとテニス部にまで声をかけてくる。朝から晩まで貴之と一緒にテニス漬け。こんな日々がずっとずっと続くと信じていた。
 しかしそんな生活は、物語半ば、とある事件をきっかけに一変する。
 学校を休学して小さな島にひっそりと身を隠すようにした侃は、そこで半分ボケてしまった祖父と、島の子どもたちとともに暮らし始める。島や子どもの存在が簡単に癒しとなるわけではない。それでも、逃げざるを得なかった「なにか」と向き合う力を得るために。
 オールマッスルズだけど、実は活字中毒、という侃と、文武両道で同性の目から見てもかっこいい貴之のふたりがとても良い。ふたりでバカやってる高校生活が鮮烈で、一瞬一瞬が眩しいくらいに輝いている。しかも、元男子校で、脱ぎキャラがいる……あたり、自分たちの学校と似ているところもあって、共感できる人も多いのではないかと思う。
 部活動小説は数あれど、実はいままでテニス部を舞台にした小説はなかった。そういう意味でも貴重だし、部活を舞台にしたものとしては『武士道シックスティーン』と同じくらい、傑作だと思う。オススメ。



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