「料理の味わいや、それを口にして『美味しい』と思った気持は、料理人が女と知れただけで消えてしまうものなのでしょうか?」
「消えてしまうでしょうな」
           
    「想い雲」(「想い雲所収」) 高田郁  角川文庫

 「つる家」で料理の腕をふるう澪は、土用の入りに出す暑気払いの料理に頭を悩ませ、江戸っ子の鰻好きに対して、上方の鱧料理の味わいを思い出す。しかし、鱧は江戸では手に入らない食材だった。しかしそんなある日、澪の幼なじみで、いまはあさひ太夫となった野江のために、鱧を手に入れた客がいるのだということが耳に入ってくる。江戸の料理人では、鱧を調理することはできない。楼主から腕のたつ料理人を紹介してくれと頼まれた源斉は、ぜひ澪にと話を持ってくるが、女の作る料理など出せぬ――と、楼主はかたくなに澪を拒む。あさひ太夫となった野江ちゃんに、滋養のつく料理を、心をこめて作りたいのに。澪は悔しさをこらえて我慢しようとするが……――
 「つる家」の評判を聞きつけ、女料理人ということだけを売り物にする店が出てきたり、行方知れずとなってりう天満一兆庵の若旦那、いまは澪を娘とも思っていつくしんでくれる芳の実の息子、佐兵衛に関する悪い話が明らかになったりと、1、2巻のように、穏やかな日々の中にも、さまざまな事件が起こる。



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