冷静に、良識をもって考えを整理しようと試みる。ごくごく単純な問題だ――ある男と恋に落ちたという。誰の身にも発生する事態ではないか。相手が国際的テロリストであるという事実を別にすれば。
        
  「オリヴィア・ジュールズ 彼女のたくましすぎる想像力」 ヘレン・フィールディング(池田真紀子訳) ソニー・マガジンズ

 イングランド中部の小さな町で育ったレイチェル・ピクスリーが14歳のとき、目の前で両親と弟が大型トラックに轢かれて死んだ。レイチェルはその後アル中のおばさんに育てられ、17歳のときには、2学年上の恋人が突然ゲイ宣言をして彼女のもとを去っていった。……と、こうなってくるとレイチェルに残された道は「悲劇の主人公」か「喜劇の主人公」かどちらかの選択肢しかないのだが、この話はもちろん、後者の物語。
 人生設計の徹底見直しを図ったレイチェルは「オリヴィア・ジュールズ」と名前を変え、一流のジャーナリストを目指し、最高に楽しい人生を目指すことを求めたのだが、問題となるのは彼女のたくましすぎる想像力。おかげで硬派ジャーナリストを目指しているはずが、与えられたのはフェイスクリームの新製品発表パーティの取材。けれど、パーティ会場でオリヴィアが目にしたのは……ウサマ・ビンラディン! 国際テロリストを放置するのは人類としての義務にも反すると、オリヴィアはハリウッドで映画のプロデュースをしているピエール・フェラーモ(オリヴィアの見抜いたところ、ビンラディンの変装。身長を何センチか切り詰めているようだけど)に張り付くことを決意する。うまい具合に、フェラーモのほうもオリヴィアに気があるようだし。そしてついにマイアミからハリウッドへ、南米ホンジェラスからエジプトのカイロ、スーダンの砂漠まで…・・・オリヴィアのスパイ大作戦が展開する。
 オリヴィアの「生きるためのルール」は決して世間とズレたものではない(「1決してパニックを起こしてはいけない」「2誰もわたしのことを気にしていない。誰もがわたしと同じように自分のことだけを考えている」)。しかし、これが繰り返されると、おかしなことになっていくのが、この物語の笑えるところ。ステファニー・プラムが大好きな人には絶対のオススメだし、もしこの本を読んで、もっとこういうパワフルな女性の話が読みたい! と思ったら、ステファニー・プラムシリーズをオススメする。楽しく読めること請け合い。



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