もはや手押し車も、重責もなかった。人生の意義を発見すると同時に失った男、それが私であった。辺りには大混乱が渦巻いていた。
                 
「夜の翼」ロバート・シルヴァーバーグ(佐藤高子訳)ハヤカワ文庫

 文明の第三周期にあって、地球の人類たちは厳格なギルドの法を中心とした生活を送っていた。ある周期において人類の首都であったとされるロウムでは<支配者>がおり、夜の翼をはばたかせて<翔人>が飛び、地球外からの侵略者を<監視人>が見張っている。
 ロウムまでの道行きをともにした<監視人>の私と<翔人>のアヴルエラ、<変型人間>のゴーモン。しかし、ギルドを持たぬ<変型人間>のはずのゴーモンは、<記憶者>のように地球の過去の歴史に詳しく、<監視者>は彼のことを疑い始める。だがゴーモンこそは身をやつした<記憶者>どころか、姿を変えて地球に侵入していた侵略者たちの一人だったのだ。千年もの間、他星人がやってくることを信じて監視を続けている<監視人>のギルドに所属しながら、みずからの仕事の意味を失いかけていた私。だが、彼が警報を発したときには既に遅く、地球はゴーモンたち他星人によってあっというまに侵略されてしまう。混乱の中で思いがけないことから、元ロウム皇帝とともにいることになった元<監視人>は、次に<記憶者>のギルドに所属することを望む。彼は知りたかったのだ。なぜ、地球は侵略されねばならなかったのか。過去の地球はどのような姿だったのか……――
 自分のしていることに意味があるのか。生きている間には、どんなに見張りを続けていても侵略者の姿を認めることができないのであれば、自分の人生は無駄に過ぎないのではないか。そう思った矢先の侵略者襲来。けれど、侵略者が来てしまえば、もう見張りをする必要はなくなり、無駄だと思いながらも続けてきた仕事すら奪われてしまうのである。なんともこう、やりきれないというか、ここで絶望にかられても仕方のない状況であるのだが、老<監視人>は、身軽になった自分を活かして、放浪の旅の中、次々にいろいろなギルドと関わっていく。そして最後には、ギルドを超越した真理にたどりつくのだが、そこは感動的な幕切れだといえる。どんなに姿が変わり、生活が変わっても、人間が力強い存在であることを教えてくれる。
 ヒューゴー賞・アポロ賞受賞。



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