「この中に、仮面をかぶった殺人者がいるのね」
               
  「夏の王国で目覚めない」彩月美月  早川書房

 三年前に母親が失踪し、父親の再婚相手とも義理の弟ともなじめず、家族の中でひとり浮いているように感じている高校生の美咲。ただひとつのなぐさめは、年齢も経歴も一切謎の作家、三島加深の幻想的で謎めいた作品を読むこと。選ばれたファンしか入ることのできないファンサイトで<蝉コロン>を名乗る美咲にとって、この掲示板で書き込む他のファンたちも大切な仲間だった。だが、<ジョーカー>という人物から誘われた架空遊戯を受けたときから、状況は一変。与えられたコマンドに沿って役を演じながら参加するミステリーツアー。本名もハンドルネームも名乗ることは許されず、さらにゲームの脱落者を待ち受けているのは、死……――。果たして美咲は三日間のミステリーツアーを無事に終えることができるのか?
 そもそもインターネット上の掲示板だけのつきあいで、顔を合わせたことのない男女が、ミステリーツアーの名のもとで「役」を演じる。ベースとなっている物語は、ミステリーツアー参加者の友人、恋人であった羽霧泉音の死の謎を明らかにすること。全員で力を合わせたいところではあるが、美咲自身、九条茜という大学生を演じており、他の面々もそれぞれに「役」を持っている。この中の誰かが犯人役なのだ。外見や口調だけでうかつに信じるわけにはいかない。
 当初、遊びだったはずのミステリーツアーで死人が出てしまい、生き延びるためにゲームを続けざるを得なくなった美咲。そんな彼女が唯一信じられるのは、だれか。
 劇中劇という仕掛けが謎につぐ謎を呼び、かなり凝ったつくりになっている。いったん読み終えてから、またあらためて読みたくなる作品。




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