「なんのためにお酒を断って立ち直ろうとしているのか、よくわからないのよ。だれのために立ち直ろうとしているのかが。たとえ自己満足のためであっても、なにかの目的のために頑張ってるんだって思うことができたらいいんだけど、目的なんてなにもないんだもの」
        
「凍てついた夜」 リンダ・ラ・プラント(奥村章子訳) ハヤカワ文庫

 優秀な警部補だったロレイン・ペイジは、相棒の死をきっかけに酒に溺れるようになり、ついには職務中に少年を誤殺、仕事を失い、家族を失い、酒のためになにもかもをなくし、ついには売春婦にまで身を落とす。六年後、車に轢かれて施設に収容されたときには、精神分裂症の疑いありと診断され、ありとあらゆる病気を抱え、前歯が一本欠け、左眼の下から頬にかけては醜い傷跡さえあった。どん底まで落ちたロレインは、リハビリセンターで知り合った、人の良いロージーの家に転がり込む。いずれは金を盗んで逃げ出そうとしていたのだ。いつかはまた酒を飲んでやろうと思いつつも、ロージーのいうことをきくふりをして生活しているうちに、酒を飲まない自分に自信を持ち始めるロレイン。そして、ふとしたことから連続殺人事件に巻き込まれた彼女は、自らの手で犯人を挙げようと動き始める。
 主人公が苦難から這い上がる物語というのは、それだけで興味深いものだが、この主人公の場合は並ではない。ほとんど天辺からどん底まで落ち、そこからふらふらと頼りなく這い上がり始めるのだが、その道筋にも常に酒の誘惑がつきまとうからだ。そしてまた、ロレインの傍らに常にあるのは深い孤独感である。それは警部補時代から、女であるというだけで受けた疎外感であり、いまはまた、過去を持つ女として世間一般に受け入れられないという感情でもある。自分を理解してくれるひとはだれもいない、傍にいて慰めてくれるひとは誰もいない。親友となったロージーの優しさは、ときにロレインを泣きじゃくらせるほどに甘いが、二巻目「渇いた夜」では、そのロージーにも恋人ができ、ロレインはますます孤独を噛みしめることになる。
 そして――これは、ぜひ、三巻目の「温かな夜」まで読んでもらいたい。正直、こんなラストになるとは思わなかった! と叫びたくなるどんでん返し。さすがリンダ・ラ・プラント、物語をおもしろくするためなら何でもするんである。



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