自分の未来について、すでにある程度の予感があったのかもしれない。
          
 「新しい太陽の書」 ジーン・ウルフ(岡部宏之訳) 早川書房

 “真理と悔悟の探求者の結社”、通称拷問者組合の若き徒弟セヴェリアンは、徒弟から職人にとなったものの、反逆者に加担した疑いで捕らえられた貴婦人セクラに恋をし、彼女に速やかな死を与えたことで、組合を追われ、テルミヌス・エストという剣を与えられて、一地方の警士となるべく旅に出る。その途中、意図しないままにペルリーヌ尼僧団の魔石<調停者の鉤爪>を手にしてしまったセヴェリアンは、旅の中で、この<鉤爪>の不思議な力を何度も目の当たりにする。死者をよみがえらせ、病人を癒すこの<鉤爪>の真の力は何か。時を操る力なのか。死にゆく太陽の惑星ウールス。ここに新しい太陽はおとずれるのか。セヴェリアンの果たすべき役割とは。
 「拷問者の影」(世界幻想文学大賞受賞)、「調停者の鉤爪」(ネヴュラ賞受賞)、「警士の剣」(ローカス賞受賞)、「独裁者の要塞」(ジョン・W・キャンベル賞受賞)と、シリーズすべての巻が何らかの賞を受賞している、読み応えのある作品。
 ありとあらゆる拷問を学び、それを実行する拷問者組合の徒弟、しかも決して忘れない記憶力の持ち主といった主人公の設定の妙といい、死にゆく太陽の惑星といい、おもしろいネタがわかんさか入っているのだが、実はこの「わんさか」が問題であって、セヴェリアンたちの側からすると未来から過去にむかって生きている過去人といった存在や、独裁者や高貴人、上流人といった人々、不気味な異生物、そしてそもそもこの世界は何なのかという不思議――セヴェリアンが「船」というとき、海を行く船なのか、宇宙を行く船なのかが不明だったりする――が絡み合い、一読してわけのわからない部分は山のようにある(いや、頭のいい人ならちゃんと読めるのかもしれないが、わたしは混乱してしまって意味不明な部分が多かった)。が、しかし。一通り読み終えて、もしやあの部分が伏線だったのでは、などと思いながら再読すると、不思議と見えてくる部分が増えたりして面白く、さらにもう一度読み返してみるともっとすっきりわかったりして……そう。この話は、何度も繰り返し読むことで楽しみが増える、スルメみたいな本なのである!
 ファンタジーのかたちをとったSFはけっこうあるのだが、これだけわかりにくく、もろファンタジーにしている作品も少ないかも。ともあれ、オススメ。一度読んでわからないからといって投げ出してはいけません。少なくとも、二度は読んでください(笑)。




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