「失礼ですが、アントニオさんじゃございませんこと?」
「そんなことは思い出したくもありません。アントニオは辞めることにしたのです」
            
 「猫とともに去りぬ」(「猫とともに去りぬ」所収) ロダーリ(関口英子訳) 光文社古典新訳文庫

 息子夫婦の家に同居している元駅長のアントニオ氏。悠々自適の退職、年金生活のようではあるが、最近は誰も彼の話に耳を傾けてはくれない。四十年も国鉄を立派に勤め上げたというのに、この家には居どころなんてないのだ、とふてくさせるアントニオ氏。そんなある朝、多くの古代ローマの遺跡に多くの猫が棲みついている、アルジェンティーナ広場へと向かったアントニオ氏は、そこでみるみる猫となって、新しく猫生活を始めてしまった。こうしてみると、広場にいる猫はわずか半分がホンモノの猫、残り半分は自分と同じ人間業を辞めたものたちらしい……
 ユーモアたっぷりにナンセンスな話ばかりを集めた短編集。ピアノとともに旅をするさすらいのガンマン(?)ピアノ・ビルの物語「ピアノ・ビルと消えたかかし」とか、バイクに恋をして父親に勘当される息子の話「恋するバイカー」、沈みゆくヴェネツィアを魚になって生きのびようとする家族の物語「ヴェネツィアを救え あるいは 魚になるのがいちばんだ」などなど、おかしな話がたくさんある。複数の物語に栓抜き部品工場の社長マンブレッティ氏が登場するあたり、なつかしの昔話パターンのようでもあるし、金星の大統領と恋に落ちる物語があったり、宇宙人がやってきてピサの斜塔を略奪しようとしたりするところはSFのようでもある。ばかばかしくってナンセンスで、でもよくよく考えてみるとかなり痛烈な風刺かも、と思えるような作品ばかり。かなりオススメです。



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