「大変です。深川刑事が平田に撃たれました」
「なんだって」
        
 「遊びの時間は終わらない」都井邦彦
             (「謎のギャラリー ―― 謎の部屋」北村薫編) 新潮社 


 筋書きのない防犯訓練。事前に打ち合わせられたのは、襲撃目標と日時、銀行強盗の性格や武器。もちろん、警察主体の防犯訓練なのだから、銀行襲撃犯がまんまと成功してしまっては沽券に関わる。そこで選ばれたのが犯人役の平田刑事。お荷物刑事なのだからどうせ失敗するだろうと……そう思ってのことだったのに、平田刑事は「忠実に犯人役を演じる」ために、思いもかけない行動に出、警察の裏をかきつづけてしまう。単身乗り込み勇躍するはずだった深川刑事は殺される。しかも「銀行強盗の携帯している武器はライフル銃」としか決まっていなかったため、自分のモデルガンの使用許可を取っていた平田の、そのモデルガンとはAR18自動ライフル。一分間に750発の速さで弾丸が飛び出すというシロモノ。狙撃犯が殺した人影は「誤射」。訓練なんだから緊張感なんてかけらもなく、堂々と報道しまくるTV局、群がる人々。
 あ、この話どこかで知ってる、と思った人は正しい。本木雅弘主演の映画がありましたっけ……なつかしい。これはその原作である。あとがき代わりの北村薫・宮部みゆきの対談によると、この都井邦彦という人、一冊まとまるだけの量がないので、特に本になっていないのだとか。ぜひ他の作品も読んでみたいと思わせるブラックさなのにもったいない。
 さて、この「謎の部屋」、他にもおもしろい話がたくさん。有名な「烏賊」(宇野千代「大人の絵本」)を見つけたときには、ここに選ばれましたか! と膝をうってしまったほど。
 それにしても、謎といえば……カリール・ジブラン「賢い王」。これって、「南史袁粲列伝」の中にある「妙徳先生伝」なんじゃないの? 袁粲は劉宋(420年)頃の政治家だから、ジブランがこれを読んでいた可能性は高い。ってことは……単なる翻訳じゃん! それを明記してなかったら剽窃……? で、どうしてだれも(北村薫も宮部みゆきも新潮社も)なにもいわないの? 欧米人ならともかく、日本人だったら「南史袁粲列伝」を誰かが知ってて、これは…っていってもおかしくないんじゃあ? それとも知ってて無視したとか。ジブランが明記しているのだとか。どうなんだろう。時代を経て、まったく同じ作品を思いついたとか(ありえないとは思うけど。細かいところまで同じだから)。それこそ、謎である。誰かジブランに詳しい人っていないかなあ。教えてほしい。 



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