「ちっくしょう! じじい、よく聞け! オレたちはおまえを見張ってたんだよ! おまえが死にそうだっていうから、見張ってたんだ! おまえがどんな死に方するか、オレは絶対見てやるからな!」
              「夏の庭 The Friends 」  湯本香樹実  新潮文庫

 でぶの山下、エキセントリックな河辺、ひょろひょろのぼく。親のいうままに塾に通い中学受験を目指す彼らは、でぶの山下のおばあさんの葬式をきっかけに「死」「死体」というものにひかれていく。3人とも、いままで人の死に出会ったことがなかったのだ。知りたいことがあるなら知る努力をすべきだ、という河辺の意見で3人は「いまにも死にそう」という噂のおじいさんの観察をはじめる。ところが、夏なのにこたつの中でテレビを見ているだけだったおじいさんは、どんどん元気になっていくようだ……。「なりゆき」でいつしかおじいさんと言葉を交わしはじめた3人が深めていく友情。勉強のできない山下の、お父さんのような魚屋になりたい、という言葉を誉めてくれたのもおじいさんだ。おかあさんとふたり暮しの河辺がどんな生活をしていたかなんてことを、ぼくはおじいさんの家でのやりとりではじめて気づく。そしてぼくも、また。老人はどんな人もみんな同じに見えていたぼくだったけれど、おじいさんと知り合ったことによって、その見方を変えていく。
「歳をとるのは楽しいことなのかも知れない。歳をとればとるほど、思い出はふえるはずなのだから。そしていつかその持ち主があとかたもなく消えてしまっても、思い出は空気の中を漂い、雨に溶け、土に染み込んで、生き続けるとしたら……」
 忘れがたい夏に、おじいさんが教えてくれたこと。大切なことを教えてくれる、そんな一冊だ。



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