雲が切れ、太陽の光が降り注ぐ。泣いても笑っても二日間。運が良ければもう一日。
 南国の街を彩る灼熱の祭りが、今、はじまる。
             
   「夏のくじら」大崎梢  文藝春秋

 都内の私大を全部すべり、祖母の家がある高知の大学に進学した篤史は、そこで従兄弟の多郎から、六年ぶりに復活した町内会のよさこいチームに加わらないかと誘われた。四年前、中学生の夏にも同じように誘われたが、そのとき篤史が楽しんでいなかったのではないかと、多郎はいまだに気にしていたのだ。しかし、篤史がよさこいにほろ苦い思いを抱いているのは、友達と遊ぶ多郎においてけぼりにされたからでも、メダルが一つももらえなかったからでもない。名前さえ知らない年上の女性。彼女が二日めのよさこいに姿を現さなかったからなのだ……――
 成り行きからよさこいチームに参加することになった篤史。そんな彼の加わる鯨井町チームには、元遊び人の月島や、落ち着いた雰囲気で皆を陰から支える三雲、そして、普段はやる気のなさそうな雰囲気をばりばり出しながら、踊りとなると人格の変わるカジなど、個性的なメンバーばかり。衣裳が決まらずに悩むスタッフを慰め、踊りのダメだしにくじけそうになり、さまざまな出来事を乗り越えながら、熱い夏が始まる。
 四年前によさこいの練習で出会っただけ、名前さえ知らない、顔だって変わってしまったかもしれない人を探す、という謎ときを軸に、鯨井町チームの、そして篤史のよさこいが丁寧に描かれている。なにせ男でありながら「姫」だの「花メダルクイーン」だのという異名をもつカジの下僕(否、従者)となって、よさこいのトップで踊るのだ。くじけてなんかいられない。
 よさこいのルールや、チームの盛り上がりぶりなどが丁寧に描かれ、まるで自分が参加しているような気分も味わえる。パワフルな青春小説。オススメ。




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