「あれは杏菜だよ」
「違う」
「どうしてそう言いきれる?」
「どうして杏菜だと言える?」
                     
 「模造人格」 北川歩美 幻冬舎

 記憶を喪い、おかあさんとふたりで暮らしていた杏菜は、ある日、ホテルで母親に置き去りにされる。代わりに待っていたのは、彼女を杏菜だとは認めようとしない人々。彼らは繰り返し、杏菜が本当に杏菜であるのか、そうでないのかを議論する。なぜなら、外川杏菜は死んだはずだからだ。美緒、麻夜のふたりの友人とともに。
 だが、精神科医であり、麻夜の父である日田は、麻夜が生きているような演技をし、杏菜が帰ってきたのなら麻夜も帰ってくるだろう、と口にする。美緒の父である森島もまた、杏菜には複雑な思いを抱いているようだ。そして、杏菜の異母兄の大樹、美緒の兄政人。
 物語は自分が誰なのかわからない不安に苦しむ杏菜と、杏菜を疑う政人の視点から描かれている。
 杏菜とされている少女はいったい誰なのか、それが明らかにされると同時に、四年前の事件の真相が明らかになる。異常者に殺されたとされた三人の女子高生。だが、その裏に隠されていたものはいったいなんだったのか。
 「人」とは記憶なのか、という話でもある。記憶をすべて消して、別の記憶を持たせたら、それは別人になるのか、それとも同じ人間なのか。――おお。まるで「冬のソナタ」を思い出させるような話ではありませんか(苦笑)。
 とっととDNA鑑定しろよ!(物語内部では、父親との親子鑑定がどうのこうのと取りざたされているが、本人のブラシに残っている髪の毛とか、DNA鑑定のやりようはいくらでもあるはずである。一般人ならともかく、医者と弁護士が揃いも揃ってそういうことに頭が働かないのが、じれったくてじれったくて)という部分が歯がゆくて仕方ないのだが、それを差っぴけば面白い話ではある。と、思う。



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