――何はともあれ、がんばれ、阪神タイガース。
            
「五人の王と昇天する男達の謎」 北村薫(「新本格猛虎会の冒険」所収) 東京創元社

 物語の内容にふれる前に、奥付を見てみよう。「2003年3月28日初版」――そう。これは阪神が劇的な優勝を飾った2003年のシーズン開幕直前に発行された、阪神ファンの「がんばれタイガース」推理小説なのである。
 ゆえに……ある意味では、自分たちの思い入れを恥ずかしげに感じていたり、優勝できない悔しさがにじんだり、星野監督への期待が行間に浮かび上がってきたりと……そういうものが仄見える面白さにも満ちている。
 それにしたって。
有栖川有栖。いしいひさいち。逢坂剛。佳多山山大地、北村薫、黒崎緑、小森健太朗、白峰良介、エドワード・D・ホックというそうそうたるメンバー。阪神ファンとしての知識をそこはかとなく、ときには前面に押し出しながら繰り広げられる「本格ミステリー」ときたら、これはもう、タイガースファンだったら、否、そうじゃなくても読まなくっちゃね!
北村薫の「五人の王と…」は「わたし」が有栖川有栖さんと推理する物語で、はっきりいって阪神タイガースを含む野球全般に関する知識がないと絶対解けない、逆にいえば野球ファンにとっては頭を絞れば解ける、マニアックなミステリーとなっている。挑戦してみるのもおもしろいだろう。
 面白いといえば、白峰良介や有栖川有栖の作品には、これぞ阪神ファン、という人物が描き出されるのだが……それもまた、なんというかわたしたちが普通にステレオタイプとして思い描く阪神ファンの姿のようでおもしろい。
 なんだか物語についての説明をしていないが、楽しめちゃったのである。作者たちが、阪神優勝後にどういう感慨を抱いたのか……聞いてみたい。きっと感極まっていただろうなあ……



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