「愛しているものに、おなじくらい愛し返されて、気持にこたえてもらえるのなら、この世の苦しみはほとんどないだろうに」
       
         「燃えるサバンナ」 澤見彰  理論社

 北方にケニア山をのぞむニエリ地方。そこに住むマサイのライセル氏族たちは、二年以上つづく干ばつに苦しめられていた。大呪術師レムヤの預言によってナイロビへの移動を試みるが、中間点にはドロボー族の縄張りがある。しかも、呪われた娘として村中からつまはじきにされていたシバには、ナイロビに水があるとは到底思えなかった。水をもたらすためには、赤い月にのみあらわれる太陽の化身、伝説のライオンのたてがみを切るしかない。村を追い出されたシバは、ただひとり、伝説のライオンを求めて砂漠へと旅立った。飢えと渇きと孤独と。だが、自分やマサイの人々が助かるにはこれしかない。一方、ドロボー族との戦いはレムヤの息子に重傷を負わせ、しかもたどり着いたナイロビにも水はなかった。呪われた娘が呪いを口にしたせいだというレムヤの言葉を信じて、そこにはいないシバを憎む人々。シバの孤独が癒される日はくるのか? そして、伝説のライオンは本当にいるのだろうか……? 
 幼いときから呪われた、災いを呼ぶ娘として村八分にされていたシバだが、旅に出たことによって、同じシバという名をもった大叔母を恋人と呼び、そのあとを追うチャパ老に出会い、さらには自分のことを追いかけてきてくれたマティンとより深く知りあうことで、これまでの自分の孤独の深さ、そして未来への希望を抱けるようになる。
 いつの時代かわからないマサイ族の少女という、ちょっと変わった主人公を据えてはいるが、これは純然たる青春物語である。十代の少女の孤独やかなしみ、希望、そんなものが丁寧に描かれている。



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