「たいしたことではありません」
       
 「翠色の習作」(「壊れやすいもの」所収 ニール・ゲイマン、金原瑞人・野沢佳織訳) 角川書店

 アフガニスタンで傷を負い、ロンドンに戻ってきた元軍人の「わたし」が同居するようになったのは、謎めいた白衣の男だった。さして社交的でもないのに、昼夜を問わず人が訪ねてくる。こともなげにさまざまなことを言い当てる洞察力。わが友はいったいなにものなのか? そしてある日、わが友のもとを訪れてきたレストレイド警部により、わたしは同居人が有名な探偵であることを知るが……――ひとひねりもふたひねりもあるホームズ番外編(?)。
 短編と詩からなるこの本は、献辞でレイ・ブラッドベリ、ハーラン・エリスン、ロバート・シェクリイの三氏の名をあげている。それぞれに短編の名手ではあるが、その分野はご存知のとおり、SFやファンタジー、ホラー、サスペンスといった分野である。そこで、この「壊れやすいもの」にも、どこか不気味で、どこか不思議な短編が多く収められている。
 「スーザンの問題」は、「ナルニア国物語」をひねったもの。好き嫌いは分かれると思うが、作者が述べているように、ナルニアの四兄妹のうち、スーザンの扱いは確かにひどい部分がある。そこを突いてみると……そうか、こんな話になってしまうのか、と思うかも。
 不条理すぎてざらついた読後の作品もあるかと思うが、ユーモアたっぷりの魅力的な作品から、気持の悪いホラーまで、魅力ある作品がたっぷり詰まっている。
 ちなみに「ゴリアテ」は、映画マトリックスのウェブサイトに載せるために依頼されて書いたものだとか。マトリックスファンはぜひ。



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