でも、それにしては、オデュッセウスと家来たちの漂流した先が、そろいもそろって官能的な地中海世界の中でも、風光明媚、気候温暖、食べ物は美味く、美人の産地として名高い土地ばかりではありませんか。
                
 「サロメの乳母の話」 塩野七生 新潮文庫

同じ塩野七生の「ローマ人の物語」。実はかなり巻がすすんでから一気読みした。いまとなれば次が待ち遠しいほど、好きだ。しかし、オススメ文は書けなかった。悪い本だと思ったわけではないが、どこがススメどころか……という点で、やや迷いがあったからだ。「ローマ人の物語」の面白さは、わたしにとっては、上手な大学の講義を聞いているときの気分に似ている。自分で調べなくても、充分によく調べてよく知っている人が語りかけて教えてくれて、自分までもがちょっぴり賢くなったように錯覚できる、そのような面白さ。
では、この本はどうしてススメるのか、といえば、いいわけになるが、一応物語の体裁をとっているので読みやすいだろうと思われるのと、これをきっかけに「ローマ人の物語」を読んでくれたらいいね、とか……。
題にあるように、サロメの乳母、オデュッセウスの妻、ダンテの妻、キリストの弟などなど、有名な歴史上の人物の身近な人が、真実を語る、という体裁をとっている。ということは、ある程度の「表舞台」、いわゆる一般的な通説を知っていたほうがおもしろいとは思う。何も知らない人がこれだけ読んでどれだけ楽しめるのかは疑問。ただし、知っている人にとっては、なるほどねえ! とおもしろい。というのも、考えることないですか? こういう裏があったんじゃないのかな、とか。これって実は違うんじゃない、とか。そういうツボをものの見事に押さえられた、という感じなのです。それにしても最終話を読んで、ふと……日本で、悪女でも善女でも、とにかく何かを成し遂げた歴史上の人物で、かつクレオパトラとかトロイのヘレンと肩を並べられる人物……って……やっぱりいないのかしらねえ。



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