死は排除したいけれど、現実にそこにある。見て見ないふりはしたくない。平和を願うためには戦争を思わねばならない。この世界の豊かさや優しさを実感するためには、貧しさや憎悪から眼を逸らしてはいけない。
                
  「メメント」森達也  実業之日本社

 死を想うことは重苦しい。けれど、思考や感覚を止めることは麻痺に近い。人間はいつか必ず死ぬものだ。ペットも死ぬ。海のむこうの遠い国では、何千、何万という単位で人が死んでいる。死後の世界はあるのだろうか? 宗教の果たす役割は?
帯にはこのようにある。
「僕たち人間は、自分が必ず死ぬことを知ってしまった唯一の生きものだ。じゃあ、「死」ってなんだろう?」
 というわけで、森達也が考える「死」――ではあるのだが。
 もちろん、「死」について考えることはやめないが、思いは「死」ばかりではなく、『A』や『A2』と関連したオウムについての考察だったり、自分が観た映画、作った映画、映画でかかわった人々、など、さまざまな方面にむかう。そういう意味では、決して重苦しいだけの本ではなく、むしろ『死刑』(朝日出版社)のときのような、ロードムービー調というか、思考のさまよいがうかがえて読みやすい。
 この本を読んで、死ぬことが怖くなくなるということもないだろうし、親しい人を亡くした悲しみから立ち直るということもないだろう。でも、「死」や、その他もろもろの観たくないもの、気づきたくないものから眼をそむけていた自分からは脱皮できるに違いない。まずは、向かいあって自分の頭で考えること。そういうことなんだと思う。
 個人的には、粘菌とプラナリアの話がおもしろかった。
 なぜ「死」を考えるのに粘菌とプラナリアだって? それは読んでのお楽しみ、である。




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