≪なんてこった、五階と六階が買われた! 奴ら、私有地で軍事演習を行う許可を法務局に要請しやがった!≫
         
    「マルドゥック・スクランブル104″」(「マルドゥック・フラグメンツ」所収) 冲方丁  ハヤカワ文庫

 「マルドゥック・スクランブル」待望の短編集。ボイルドとウフコック、ドクターが活躍していた時代の物語、ボイルドとバロットの闘い、そしてウフコックとバロットによる事件解決。これまで「スクランブル」「ヴェロシティ」と読んできた人には、彼らの過去、現在、未来を1冊で楽しめる超お楽しみな本に仕上がっている。
 それにしたって、ヴェロシティでもうすうす感じていたことだが、ウフコックとボイルドが組み合わさったときの方がおもしろいなあ……敵のやることも非常識きわまりなく、ホテルを買収して私有地にしてしまえ、という発想もすごいし、それへの対抗手段もふるっている。自販機のそばに行くことだったり(理由は読んでください)、買えないまでも下見と称してひとつだけの部屋を自分たち用に確保したり……微妙なユーモアセンスが光っている。
 確かに、これほどまでに信頼していた相棒と敵味方に別れ、ついには徹底的な別れをも経験したウフコックが、さらに煮え切らない状態になることはわかってはいるのだけれど、アノニマスにむけて、どうも暗くなっていく一方のような気がして仕方ない。生きることへの疑問、「生命」に対する疑問を問い詰めていけば重い話になっていってしまわざるを得ないのかもしれないが、それでももう少し、楽しめる部分も残しておいてくれればいいのになあ。
 それにしたって、シザーズたちの増殖したマルドゥック市はどうなっていくんだろう。ともあれ、オススメ。



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